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猩々の構造と作り方


猩々大人形は、紙張子でできている頭部と、竹を組んで作った体部と、衣服(どてら、祭礼では裃に着替えることもある)からなっています。このうち、頭部を作るのが最も大変で時間がかかり、全作業工程の7〜8割を占めています。ただ、この頭部の表情が猩々大人形の性格を決定しますので、とても重要です。
保存会会長の久野充浩は、「一閑張り」という古来から伝わる技法で猩々の頭部を作っていますので、少し紹介したいと思います。

また、笠寺猩々保存会では、猩々作りを子供たちに教える活動も行っています。子の世代へ、孫の世代へと、ずっと受け継いで行って欲しいと思っています。


 一閑張りについて

一閑張り(いっかんばり)は、飛来一閑が創始した細工物と言われており、竹で編んだ籠に紙を重ねて貼り付け、漆や柿渋で染め上げたものです。古くは千家に茶道具として重宝され、現在でも和風の小物やインテリアグッズなど、いろいろな種類のものが市販されています。
参考HP: 一閑張・一貫張と柿渋 ・ 伝統工芸 本渋引き一閑張り ・ 一閑張りのこと ・ 一閑張りと柿渋の話

一閑張りの作品は、一般的には右の写真のように竹で編んだ骨格に紙が貼ってあり、紙も竹の骨組みがわかる程度にしか貼っていないことが多いです。

確かに、大高の「くり」のように、古い猩々の頭部には竹で編んだ骨格が入っていることもあります。ただ、その作り方では顔の表情などの細かい変化がつけにくく、どうしても球形の頭に目や鼻を描いただけのような、のっぺりした顔立ちになってしまいます。

久納良助・久納良右衛門の流れを受けた猩々は、同じ一閑張りでも少し違っており、内側の補強は多少あっても、基本的には粘土で作った型の上に幾重にも紙を貼った、いわば紙だけの構造で作られています。そのため、目鼻立ちがくっきりとしており、豊かな表情の頭部になっています。
ただ、強度を保つためにはかなりの紙の厚さが必要ですので、作るのは大変です。猩々の頭部はとても大きなものなので、会長の話では、1体完成するのには1年ぐらいかかるそうです。


 頭部の作成

まず、瓦を焼く粘土で猩々の頭の型を起こします。顔つきはいろいろですが、一般的には、鼻は低くて横に広く、目は三日月形で・猪レがち、口は大きく笑っているのが特徴です。出来上がりの顔のアウトラインはここで決まりますので、慎重に表情を作ってゆきます。笑っているのと同時に怖さを併せ持つ表情に仕上げるのには、かなりの経験が必要だそうです。頭部の後ろ部分の型も、顔にサイズを合わせて作っておきます。

その型の上に、和紙を何枚も糊で貼り付けてゆきます。染色したときにつなぎ目が見えないように、毛足の長い和紙を手でちぎって糊付けします。
ある程度乾燥していからでないと、次の和紙を貼り付けることができないので、この作業には多くの時間を要します。

十分に張子の厚みができてきたら型からはずし、さらに十分に乾燥させ、顔側と後頭部側を銅線で固定します。接合部に和紙を貼り付けて前後を一体化させ、耳は、手練りで取り付けます。

頭部全体には、ベンガラと柿渋を混ぜた赤い染料を塗ってゆきます。この染料は、経年変化に強く、防虫効果もあります。目と口の白い部分は、水に溶いた「にかわ」に白胡粉を混ぜたもので描き、黒目や眉毛は、墨で書き込んでゆきます。

最後に、髪の毛を取り付けます。毛の素材は麻で、十分に水に浸した麻を棒でたたいて割り、顔と同じベンガラと柿渋を混ぜた染料で染めます。染め上がったらよく手で揉みほぐし、ヘアスタイルに合わせて編んでゆきます。

 体部の作成

胴体は、竹を格子状に組んで銅線で固定し、カゴ状の形にします。写真のように、O型の横竹(胴回り)、逆U型の縦竹、肩竹の3種類の組み合わせで編まれています。
上部には、頭から出ている首棒を差し込む溝つきの板が、二重に取り付けられています。
前面には、のぞき用の布(ガーゼか木綿)を取り付けます。こののぞき用の布の部分を、「息抜き」または「息出し」と呼びます。中から外は見えますが、外から中にいる人の顔は見えません。
あとは、衣装(どてら、または裃)を着せて完成です。


籠の前面 (袴オス)
この前面に、のぞき用の布を取り付けます

頭部に付いている首棒 (袴オス)
この棒を、下の写真の四角い穴に差し込みます

肩棒
被る人の担ぐ竹が2本付いているのがわかります

籠の溝
籠を上部から見たところです

肩棒には、猩々を長く被っていても肩が痛くならないように、クッション状の布が巻いてあります。上の写真は、わかりやすいように、手前側のクッションをはずしてあります。また、写真のように、腹部と背部にも、クッションが取り付けてあります。

 子供向けの猩々作り教室

子供たちは、粘土をこねて猩々の頭の型を作り、できた型の上に和紙を小さく切って貼り付けているところです。会長の久野充浩が、皆に、一生懸命教えています。

実際の猩々の頭は非常に大きいので、子供たちが作るのはもちろん無理ですが、いくら小さくたって自分専用の猩々だと思うと、力の入り具合が違います。どんな猩々が完成するのか、とっても楽しみです。












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